沖縄伝統空手と松林流
1922年、正式に空手が沖縄から本土に紹介されて、わずか100年あまり。空手は世界にひろがり、愛好家は約1億3000万人といわれています。現在、本土や海外では主に競技・スポーツとして楽しまれています。
発祥の地・沖縄では、県内約400の道場で昔ながらの稽古が続けられています。近年、自由組手による競技試合を行う団体もありますが、基本的には本土の古武道と同様、形を中心に鍛え、打つという地味な稽古が継承されています。
海やリゾートが思い浮かび、のんびりしたイメージの沖縄ですが、古来400年に及ぶ血で血を洗う戦国時代があり、空手はそこから発展した武術でもありました。本来、敵に打ち勝つ技術でしたが、沖縄の地政学的環境や人の気質などから、三つの側面・特色があらわれてきました。
第一:平和の武道
本人も空手を楽しむ玉城デニー知事も県の催しでよく言われますが、
手いんじら~ 意地ひき、意地いんじら~ 手引き
(殴りそうになれば冷静になれ、怒りがでればこぶしを引け)
などの格言や琉歌が昔から多く残っています。強国とのはざまの政治的な駆け引きや大戦、狭い島の中での人間関係。結論として、体と技を鍛え上げることが人格の形成につながり、難局を乗り越える智慧と手段につながったと考えられています。
第二:伝統文化としての側面
沖縄では琉球舞踊や三味線と同様、約30年前から空手家が県無形文化財に認定されるようになりました。県庁には空手振興課があり、近年はテレビコマーシャルにも使われています。
第三:生涯武道としての側面
本来沖縄は長寿の島でしたが、近年、平均寿命は極端に低くなり、県内でも特定検診、いわゆるメタボリック対策のキャンペーンを打つようになりました。
原因はファストフードなど食事の欧米化と飲酒、そして運動不足です。しかし今も沖縄では島特有の野菜や昆布などの海藻を食し、農業や漁業を中心に仲間と元気に働く高齢者が多くいらっしゃいます。何よりも体を動かし、仲間と楽しむことこそが長寿の秘訣だと考えられています。
本来長寿の邦であった沖縄では、空手にも高齢者が生涯楽しむ稽古システムが組み込まれています。われわれの流派でも昔から「寿康両全」、いわゆる健康に寿命を全うすることを掲げています。
そのため80歳を超え、安心して稽古を楽しむ方が沖縄や大阪の道場にもいらっしゃいます。
さんみれ~んかい うっちゃれいか 手やちからんと ならんど~
(墓の前の敷石の上で肘をついて横になるまで、空手の稽古をがんばってやりなさい)
などの琉歌や格言が残されています。
私はいわゆる筋骨隆々ではなく、体力的にもめぐまれませんが、50年あまり沖縄伝統空手を続けてこられたのは、このシステムがあればこそだと思います。
松林流について
ちなみに松林流の名前の由来は、流派の系統であり沖縄では有名な達人ヒーロー、松村宗棍・松茂良興作の一字をとって、流祖長嶺将真により命名されました。
特に松茂良興作は、乱暴狼藉を働く薩摩武士を制し、盗賊退治を行い、地域の財産を守った英雄として顕彰碑が建立され、沖縄芝居にもなっています。
沖縄伝統空手では、形や基本動作を見れば各流派の違いがわかります。松林流の特徴はいわゆる関節躍動。腰、肘、手首などを使い、全身の力を効率よく技につなげることです。
稽古の目的
稽古の目的は人それぞれです。強くなりたい、本格的な沖縄武術を習得したい、健康のために、仲間がほしい、沖縄が好き――などなど。
われわれの道場では、競技や試合のないことで実現できるものを考えながら、一人ひとりと向き合い一緒に稽古を進めています。現在、道場では70歳代、80歳代の方も稽古を楽しんでおられます。
伝統を次の世代へ
沖縄伝統空手の演武は本来武骨で地味。競技・スポーツのような派手さはありません。
しかし、この地味さには武としての技術と力強さ、伝統と文化が残されており、われわれはこれを継承し、次の世代に残していく責務があると考えています。
芸術・文化やスポーツ、そして自治体や地区での体操教室や集まりなど、多くのサークルや活動が選択できる時代になっています。どの活動も優劣つきがたいものがあります。
その中で沖縄伝統空手も考慮いただけるきっかけになれば、と願っています。